CGI×レンダーファームと映画におけるデジタルダブルの関係について

CGI×レンダーファームと映画におけるデジタルダブルの関係について

今回は、映画やテレビ番組でキャラクターのデジタルバージョンを作成するために 3DCG とレンダーファームがどのように使用されているかを見てみましょう。

最近では俳優をCGIキャラクターに置き換える取り組みがあります。

それはなぜでしょうか。

映画プロデューサーや監督が3Dグラフィックスを使って、映画内で人間のようなキャラクターを登場させることがあり、その理由はさまざまです。予算や時間がないのかもしれませんし、出演して欲しい俳優のスケジュールが合わなかったり、契約に問題があったりするかもしれません。また、危険なシーンでは3Dを使った方が安全かもしれません。あるいは、映画製作側が、実際の人間や通常の撮影方法では不可能なシーンの作りたいと思っていることもあります。

そして、デジタルダブルによって得られる結果や影響も様々です。 うまく作成できれば、デジタルダブルは本物の俳優と同じように見え、彼らが登場するシーンは本物の俳優を使うシーンとスムーズに調和します。しかしうまく作れないと、奇妙に見えたり、滑稽に見えたり、ちょっと不気味に見えたりしてしまいます(余談ですが、人間の表情をうまく表現できておらず、違和感のある表情が不気味な印象を与えることを「不気味の谷」と呼びます。ディープフェイクビデオのようなものです)。

How CGI and render farms brought Digidoubles to Cinema
不気味の谷。出典:AlteredQualia、Fractal Fantasy(Flickr.com)

出来が良くないデジタルダブルは、大抵の場合、時間や資金が不足しているのが原因です。レンダーファームはこのような問題を解決することができます。レンダーファームは、さまざまなプロジェクトのフレームを作成するために数百台の強力なマシンを備えているため、1台のコンピューターが単独で行うよりもはるかに高速にレンダリングができるからです。これは、レンダーファームの計算能力が非常に高いからでもあり、また、ガレージファームでは、プロジェクトに使用するCPUやGPUの種類を選ぶこともできます。(こちらからご確認ください。)

確かにレンダーファームは有料ですが、自分のコンピューターでレンダリングするのが「無料」だと思っているなら、これもよく考えてみてください。自分のコンピューターでレンダリングすると、CPUの時間をすべて使ってしまうので、他のことが何もできなくなるのです。つまり、コンピュータがレンダリングしている時間は、あなたが他のプロジェクトに取り組めない時間になるのです。プロジェクトがレンダリングされるのを何時間も待った後で、エラーが出た時を想像してみてください。私たちのクラウドレンダーファームを利用するということは、素早いレンダリングだけでなく、プロジェクトに何か問題があっても24時間365日体制でサポートしてくれるサポートチームも利用できるということです。

(ガレージファームを使うと、どれくらいのスピードと金額でレンダリングできるのか気になる方は、コスト計算ツールをお試しください)。

さて、デジタルダブルとは何かがわかったところで、いくつかの例を見てみましょう。

How CGI and render farms brought Digidoubles to Cinema
ロード・オブ・ザ・リング 二つの塔

最高のデジタルダブルの例

ピーター・ジャクソン監督の映画『ロード・オブ・ザ・リング』に登場するゴラムは、これまでに作られたCGキャラクターの中で最も印象的なキャラクターの一人です。本物の俳優の代わりをしているわけではないので、ゴラムはデジタルダブルではないと言う人もいるかもしれません。しかし、考えてみてほしいことは、 アンディ・サーキスのような演技ができ、背が低く、目がとても大きく、足がとても大きい人を見つけるのは本当に難しいでしょう。これは、ジャクソン監督の『ロード・オブ・ザ・リング』の映画をさらに奇跡的なものにしました。むしろゴラムは、現実の俳優たちをも上回る演技をすることができます。このゴラムを制作するために、視覚効果会社のWeta Digital は、映画用のゴラムを作るために多くのコンピューターを使用しました。

デイヴィ・ジョーンズは映画『パイレーツ・オブ・カリビアン』に登場するキャラクターです。多くの人が、デイヴィ・ジョーンズは史上最高のデジタル・キャラクターだと考えているでしょう。こちらも正確にはデジタルダブルではなく、デジタルのクリーチャーなのですが、映画製作者たちは彼の恐ろしいイカのような外見を作り出すのに本当に苦労しました。デイヴィ・ジョーンズを特別な存在にしたのは、目をコンピューターグラフィックスで作成するのではなく、俳優ビル・ナイギーの本物の目をキャラクターの目に組み込んだことでしょう。これにより、キャラクターがよりリアルで説得力のあるものになったのです。

How CGI and render farms brought Digidoubles to Cinema
パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト

映画『パイレーツ・オブ・カリビアン』のキャラクター、デイヴィ・ジョーンズのクリエイターは、ユニークな戦略を用いました。当時、3Dモデルは人間や動物の皮膚を非現実的に見せる光沢のある外観を持つことが多かったのですが、デイヴィ・ジョーンズは常に濡れているイカ人間であるため、この光沢のある外観は、実際に彼をよりリアルに見せるのに役立ちました。デイヴィ・ジョーンズを作ったのは、有名なインダストリアル・ライト・アンド・マジック社(ILM)です。ILMには、3Dモデルを作成するための独自の専用レンダー ファームがあり、これらのコンピューターは非常に強力で、1日に1ペタバイトという膨大な量のデータを作成できます。また、これらのコンピューターは非常に多くの熱を発生するため、ILMはそれらを冷却するためにジェットエンジンに使用されるものと同様の空調システムを設置しなければなりませんでした。

アバターのナヴィ族も、CGキャラクターの最高の例のひとつでしょう。監督のジェームズ・キャメロンは、異なる世界や種族を創造することに関して卓越していると有名です。ナヴィのキャラクターは人間に似ていますが、身長は9~10フィートあり、青い肌をしています。ナヴィに本物のような動きや感情を表現させるため、キャメロン監督のチームは、『ロード・オブ・ザ・リング』のゴラムと同じように、モーションキャプチャーを多用しました。Weta Digital 社は、ナヴィと『アバター』の世界全体をスクリーン上で生命を吹き込むために、ニュージーランドの 10,000 平方フィートの敷地に建設した独自のレンダーファームでレンダリングを行いました。

マーベル映画には、ハルク、アントマン、アイアンマン、サノス、スパイダーマン、キャプテン・マーベルなど、スーパーヒーローや悪役の迫真のデジタルダブルがたくさんいます。例えば、『シビル・ウォー』ではスパイダーマンが登場するすべてのシーンでデジタルダブルが使用されています。これは、俳優のトム・ホランドが撮影の1カ月後という遅い時期にキャストに加わったためでした。デジタルダブルを使うことが、彼を映画に登場させる最も効率的な方法だったのです。また、スパイダーマンの複雑なスーツを実際に作るよりも、デジタルで作る方が実用的でした。さらに言えば、トム・ホランドがコスチュームのマスクをかぶって何時間も演技するのは、非常に暑くて大変だったでしょう。

マーベル映画では、アーティストが俳優の部分的なデジタルダブルを作ることもあります。例えば、トニー・スタークのヘルメットを脱いだ首から下の3Dモデルを作ったり、スティーブ・ロジャースが裸足で走るシーンのために、足のデジタルダブルも作成されました。別の例では、アベンジャーズがタイムマシンに飛び乗るときに着るスーツもCGで作られました。これは、製作チームがスーツのデザインを本番の撮影に間に合わせることができなかったため、ポストプロダクションでCGIを使って最終的なデザインを追加したためでした。これらの映画はすべてディズニーのもとで製作されたため、特殊効果会社のインダストリアル・ライト・アンド・マジック(ILM)がこれらのデジタルダブルを手掛けた可能性が高いです。つまり、これらのデジタルダブルを制作したアーティストは、ILMが所有するレンダーファームの大量のコンピューターパワーを使用することができたということです。

あまり良くないデジタルダブルの例

『マトリックス』シリーズの2作目となる映画『マトリックス・リローデッド』には、不評を買ったシーンがありました。主人公ネオが大量のエージェント・スミスと戦うシーンで、使用されたCGI(コンピューター・ジェネレーテッド・イマージュ)のクオリティは、映画の他の部分と比べてもあまり良くなかったのです。ネオの姿は不自然で柔らかく見え、肌は本物の人間の肌には見えず、黒いコートはまるでゴムのようで体に張り付いているように見えました。まるでプレステ2のゲームのワンシーンのようなクオリティで、マトリックス第1作の革新的でハイクオリティな視覚効果を考えると、期待はずれと言わざるを得ません。

How CGI and render farms brought Digidoubles to Cinema
マトリックス・リローデッド

映画『トワイライト: ブレイキング・ドーン』では、最後にレネスミーという赤ちゃんが出てくるのですが、不気味の谷(Uncanny Valley)という視覚現象を生じさせるような違和感のある仕上がりでした。赤ちゃんの顔は実写シーンにデジタルで追加されたようで、照明の関係で顔が離れて見えるため、不自然な印象を与えました。そもそも、レネスミーのキャラクター設定自体が奇妙だったことも原因です。半吸血鬼であるこのキャラクターは、幼児のように見えるが、吸血鬼の能力によって急速に成長するため、大人っぽく振る舞うようにデザインされていました。なので、生まれてわずか1週間でしゃべり始めるという内容でした。しかし、このコンセプトはあまり受け入れられず、観客も映画のキャストも、赤ん坊の外見に違和感を覚えたようです。

映画『ザ・マミー・リターンズ』で、ドウェイン・ジョンソンが演じたスコーピオン・キングのキャラクターはビジュアル的にあまり好評ではありませんでした。映画製作側は、人間とサソリをミックスしたような悪役を作り出そうとしたのですが、急ごしらえでディティールが不足していました。スコーピオン・キングは不自然に見え、彼の登場シーンに使われた照明も貧弱で、周囲の環境にそぐわないように思えました。全体的に、スコーピオン・キングに使われた視覚効果はインパクトに欠け、説得力のあるキャラクターを作り出せなかったのです。

How CGI and render farms brought Digidoubles to Cinema
ザ・マミー・リターンズ

デジダブルの作成

映画のデジタルダブルを作るには複雑なプロセスが必要で、そのバリエーションはあまりにも多く、ここですべてを詳しく説明することも、これまでに作られたすべてのデジタルダブルをご紹介することもできません。しかし、ハリウッドの大手スタジオとは異なり、少ない予算、少ない人員、タイトなスケジュールといった限られたリソースで、映画的なデジタルダブルのレプリカを作る方法の概要をご紹介することはできます。

最初のステップは写真測量と呼ばれるものです。このステップでは、デジタルダブルのモデルの参考写真を何枚も撮り、これらの写真をMeshroomのようなソフトウェアに入力します。このソフトウェアは、写真をメッシュという3Dモデルに変換します。そしてこのメッシュを次のプロセスで参照していきます。

第2のステップでは、人物の頭部の3Dモデルを作成します。この作業を簡単にするには、BlenderアドオンのHuman Generator、MakeHuman、MetaHumanなどのソフトウェアを使用します。これらのツールには、プリセットの人型が用意されており、モデリングする人物に似せて調整したり微調整したりすることができます。これらのプリセットを使うことで、デジタルダブルをゼロからスカルプトする必要がなくなります。

この段階では、3Dリファレンスモデル(メッシュ)と、モデリングする人物の全身写真を使用します。これらのリファレンスをソフトウェアで開き、人物のプリセットを選択します。次に、このプリセットを実際の人物に近づけるためにシェーピングを開始します。ここで、鼻筋の長さや形、眼窩の深さ、頬骨の隆起など、3Dモデルの一部を調整します。また、この段階で肌のテクスチャを選択して調整します。このプロセスは、ロールプレイングゲームやNBA 2Kのようなスポーツゲームでキャラクターを作成するのと似ています。

第3のステップでは、デジタルキャラクターの髪を作成します。頭髪ス、眉毛、まつ毛、顔の毛を含む髪は、キャラクタの全体的な見た目に重要な役割を果たすため、正確に表現することが不可欠です。キャラクタの頭部をモデリングした後、キャラクタのヘアスタイルに近いヘア・プリセットを選択し、必要に応じてカスタマイズすることができます。これは比較的簡単なアプローチです。より複雑な方法だと、頂点グループとヘアプロパティを調整することで、より高度なカスタマイズと精度の調整が可能です。

第4のステップは、微調整のプロセスです。人間のような人物をモデリングしたところで、それがまだ完璧なデジタルダブルになっているとは限りません。他の誰かに似ているかもしれないし、まったく似ていないかもしれません。そのため、この段階では、顔の微妙なディテールを作り上げるための調整を繰り返します。このプロセスでは、顔のプロポーション、目の形、唇の隆起など、細かなディテールを注意深く観察する必要があります。この段階には十分な時間をかけることが重要で、ディテールのレベルが高ければ高いほど、より説得力のある結果が得られることが多いです。なぜなら、人間の目が顔を認識するのに非常に長けており、顔の特徴のわずかな違いにも敏感であるためです。ですから、あなたのデジタルダブルが、ベースとなった人物として認識されるようになるためには、細部まで正確にキャプチャすることが極めて重要なのです。

第5のステップは服装です。ほとんどの人体作成の3Dソフトには、たくさんのプリセットが用意されているので、自分のデジタルダブルに最も適した服を選んでください。

第6のステップはリギングと呼ばれるもので、デジタル・ダブルに動きを与えます。このステップでは、デジタル・ダブルの顔や体の関節を特定のポイントに割り当てます。このポイントによって、デジタル・ダブルを操作して、さまざまな表情や体の動きをさせることができます。リギングは複雑な手順ですが、実際には、すでに説明した他の各手順と同じように、数多くの小さなステップから構成されています。別の記事で、リギングについて書くかもしれませんので、お楽しみに。

デジタルダブルとレンダリング

すべての3D要素と同様に、デジタルダブルはレンダリングする必要があります。デジダブルは、光と相互作用するポリゴン、テクスチャ、マテリアルで構成されています。そのため、デジダブルが存在するシーンの他の3D要素とともに、2D画面に適切に表示されるように変換するためには、かなりの計算能力を必要とします。また、ハリウッド・レベルのプロダクションは常にデジタルダブルのリアリズムを高める努力をしており、この継続的な改善により、より強力なレンダリング能力への需要が高まっています。

映画で使われた初期のデジタルダブルは、わずか2MBのメモリーしか持たないコンピューターでレンダリングされていました。今日の基準からすると笑えるほど小さいですが、これは1980年代には最先端の技術でした。これらのマシンは、現代のレンダーファームの前身でもあるのです。映画制作者やアニメーターがデジタルダブルのリアリズムと精度を向上させようと努力するにつれ、複雑なフィギュアをレンダリングするためのハードウェア要件もそれに応じて増えていきました。

結論

我々は現在、デジタルダブルが活躍する視覚効果の黄金時代にいます。その普及率を考えると、映画や番組での使用は今後も増え続けるでしょう。CGIをまったく使わないことを誇りとする『トップガン:マーベリック』のような映画は、特別で格式高いものと認識されているかもしれませんが、デジタルダブルとCGIが超リアリズムに向かって進行しているため、この区別はますます無意味になっています。結局のところ、視聴者がもはや何が本物で何がCGIなのかを区別できないのであれば、それは本当に重要なことなのでしょうか?

なんにせよ、これからもデジタルダブルは発展していくでしょう。

>ガレージファームのTOPへ

関連記事

No items found.
live chat